20230215
1.趣 意
「合理的配慮」という言葉は、耳慣れないものかもしれません。わが国が障害者権利条約を批准するために、最近、障害者関連の法律で導入したアメリカ由来の概念(原語は、reasonable accommodation)です。医療機関であれば、患者様等の利用者に対するコンテクストでは障害者差別解消法が、一方、自らが雇用している医療職等の労働者に対するコンテクストでは障害者雇用促進法が、それぞれ合理的配慮の提供を法的に義務づけています*。
* 差別別解消法の方は、現時点では努力義務ですが、遅くとも2024年5月頃までには法的義務になることが決まりました。雇用促進法の方は、初めから法的義務として導入されたので、すでに労働紛争や裁判では頻繁に権利主張がされています。
もっとも、合理的配慮を提供しなければならない相手は、障害者手帳を持っている人には限定されていません。心身の機能の障害があるため、長期にわたり、職業生活に相当の制限を受けていれば、合理的配慮を提供すべき対象になります。障害者とは認識されていない一般の従業員の休職からの「復職支援」、さらに、がん等の治療と仕事の「両立支援」も、合理的配慮の一環と捉えられます。
端的にお伝えしたいことは、事業主の健康・安全配慮義務が、労働者の雇用契約上の「債務の本旨」に沿った労務提供を“制限”しうるのに対し、合理的配慮提供義務は、「債務の本旨」に沿った労務提供が実現するよう事業主にも“工夫”を求めるものなのです。
今回は、患者様らの利用者との関係でも早急に真剣な対応準備をしなければならなくなった「合理的配慮」について、先行して義務づけられている雇用の場面での考え方を中心にお話します。
2.発表者
鳥飼総合法律事務所 小島健一弁護士
3.資 料