(1)「人事評価」というプロセスの位置付け
採用から退職までの人事マネジメントのプロセスの中で、「人事評価」のプロセスは他の主要なプロセスのいずれにも関連する、まさに「中核的な」プロセスです。
①採用管理 → ②成長促進 → ③目標管理
↑ ↓
⑧退職管理 人と組織 ④人事評価
↑ ↓
⑦組織管理 ← ⑥処遇管理 ← ⑤労務管理
① 採用選考のプロセスにおいて「人事評価」は必須です。ただし、採用選考における評価は「資質・能力・指向・行動」の各適性を広く判定するものです。
② 目標管理のプロセスはPlan-Do-Check-Actionのマネジメントサイクルですので、評価Checkが中核的な役割を持ちます。
③ 人事処遇とは、組織の構成員に「人事評価に応じて」地位や権限(等級と役職)を付与して組織の階層構造の中に位置づけることです。
④ 人の成長は、あるべき状態を指し示し、日常的な観察と指導に基づく人事評価を適正にフィードバックすることによって促進されます。
⑤ 報酬(給与や賞与など)は有限な経営資源のひとつであり、その配分を「人事評価に応じて」行うことが経営の効率化やモラールアップに繋がります。
(2)人事評価は何のために行うか?
上記と重複しますが、人事評価の目的を再整理すると、以下のとおりです。
①次世代のリーダーを選び出すために人事評価を行う。
人事マネジメントの役割のひとつは、組織や企業を将来にわたって維持発展させるために、その経営を託すべき人を選び出すことです。人事評価は「誰が次世代のリーダーとして相応しいか」を選び出すプロセスです。
②有限な経営資源を適正配分するために人事評価を行う。
等級昇格や役職昇任、昇給や賞与の配分も、有限の経営資源を何に応じてどのように配分するのが効果的で納得感があるか、という問題です。「人事評価」はそうした有限の経営資源の配分の基準になります。
③構成員の成長の促進やモラールアップのために人事評価を行う。
組織や企業にとってその構成員のモラール(=仕事の完成や自分の成長に向けた意欲や動機づけ)が高いことが何より重要です。構成員の努力や成果や成長への「人事評価」を行い、これを適正にフィードバックすることが必要です。
<補論>人事評価制度がなくても人事評価自体は既に行われている。
①人事評価は褒め言葉の制度化
我々は日常的な会話の中で、「彼は立派だ・優秀だ」という言葉で、また「有難う・よくやってくれた」という言葉で、人の態度や能力や実績、およびそれらを総合した貢献度を要素とする評価を、既に、かつ常に行っています。
また、経団連会長や政府の要職を務められた土光敏夫氏も「褒めもせず、叱りもしない管理職は度し難い」と言っておられます。人の成長を促進する人事マネジメントとは「褒めるべきときに褒め、叱るべきときに叱る」ことなのです。
人事評価制度は、実はこれらの称賛や叱咤と、特に別のことをやろうとしているのではなく、既に行われているこれらのことの意義や目的や要素を整理し、方法やルールを設定したものです。(「人事制度は褒め言葉の制度化」筆者)
② 達成意欲や成長意欲を引き出す人事評価
また、人の「こうしたい」という達成意欲や、「こうありたい」という成長意欲を引き出すためには、それらの努力や成果を正しく(信頼性・妥当性・納得性をもって)評価し、それを本人にフィードバックすることが必要かつ有効です。
「人事評価を行う」こと自体が負担になっているということを時々耳にしますが、「人事評価」自体は「人事評価の時期」に初めて行うことではなく、常日頃の「観察と指導」の中から自ずと評価者の心証として形成されるべきものです。
また、「人事評価を行う」ということは、「本人にフィードバックして、本人の達成意欲や成長意欲を引き出すモチベーションを行う」ことが主眼ですので、本人にフィードバックされない人事評価は意味がありません。
③評価は「皆に聴けば分かる」し「本人に聴けば分かる」
また、人事評価は、その人が、その組織や企業(延いては社会)のために「どれだけ貢献してくれたか」ということに尽きる(貢献度=態度×能力×実績)のですから、その当否は当該組織の「みんなに聴けば分かる」のです。
したがって「人事評価」は、ひとり上司の判断に委ねるよりは、「360度評価」(上司-部下間の評価だけでなく、先輩・同僚・部下からの評価を反映する)のほうが、より信頼性・妥当性・納得性が高いものになることは当然です。
さらに、「自己評価は上司評価の概ね1~2割増」という言葉も耳にしますが、現実には、一定以上の「自己認識」能力があれば、人は実に適確に「自己評価」をする(「本人に聴けば分かる」)ものであることは筆者の実感です。