(1)「SD-OJD-Off JD-OD」の相互連携が人と組織を成長させる。
親や教師が自分を育ててくれたのとは異なり、企業では、自分を育ててくれるのは上司ではなく自分自身です。また、狭義の「教育研修」で人が成長するわけではなく、あくまで「実務(仕事)」を通じて人が成長するのです。
したがって、企業における人の成長の中核は「SD(自己啓発)」であり、主な場面は「OJD(職場での仕事を通じた人の成長)」であり、「Off-JD(いわゆる協議の教育研修)」はこれらを補完する手段でしかありません。
また、企業では仕事は通常「組織的協働」によって行われるので、「人」の成長の促進と同時に、「OD(組織の成長)」が同時に促進されなければなりません。「人」の成長において「組織的協働性」が重要なテーマです。
①育成の主体は本人自身、即ちSD=Self Developmentが育成の中核
②その主たる場面はOJD=On the Job Development(仕事を通じた成長)
③Off-JD=Off the Job Developmentは、①②の補完手段
④OD=Organization Developmentは「人と同時に組織の成長を促進する」こと
(2)困難や批判や異質やそれらの克服が人と組織を成長させる。
「艱難汝を玉にす」という言葉があります。「仕事=艱難」では必ずしもないでしょうが、一見無理難題に見える仕事でも、それを「何とかしようとする」努力や工夫が、人と組織の成長させると筆者は信じます。
「褒めて育てる」というのも一面の真理ではあっても「肯定」一辺倒では人は育たず、「否定や批判」は他から強いられるものでなければ「自己成長の必要条件」ではあり、また、実務では「失敗から学ぶ」ことが多いのが現実です。
自分の「当たり前」の中に安住していては成長は得られず、自らとは異質なもの、場合によっては自らに一見矛盾・対立するように見えるものからも何かを学習し、新たな「当たり前」に達することが「成長」なのだろうと思います。
(3)自己実現に向けた成長への内発的動機づけが人と組織を成長させる。
下図はマズローの「欲求五段階説」のイメージですが、マズローは、「自己実現の欲求およびそれに向けた成長の欲求が、健全な人間の最高位の欲求である」と述べています。(「人事労務管理の思想」(津田眞澂著、有斐閣新書))
成長の欲求 → 自己実現
尊厳の欲求
親和の欲求
安定の欲求
生存の欲求
個々人が、「仕事(働くこと)」を通じて「こうしたい・こうありたい」と願うことが「自己実現に向けた自己成長」の原動力(意欲や動機)であり、この欲求を阻害せず、促進するかが人の成長を促進するマネジメントの要点です。
そして社会的存在である人間にとっては、実は「生存」も「安定」も「親和」も「尊厳」も「成長」も「実現」も、「自己単独」では成り立たず、「人間相互」でしか成り立たず、そこに「協働を通じた組織の成長」の契機がある…
(4)「より良い仕事をしよう」という内発的動機付けが成長を促す。
また、「明日を今日より良くしよう(仕事を通じてより高い価値を生み、そのために自分をより良く成長させよう)」という人間の最も素朴な意思や信念も「育成=成長の促進」の原動力(意欲や動機)であると、筆者は考えます。
上記の考え方を人事制度にしたものが「目標管理制度」=ドラッカーのMBOの制度化)です。即ち、自己実現(より良い明日の状態)のための自己成長の欲求を喚起することが「人の成長を促進する」人事マネジメントの根幹です。
後述のとおり、「目標管理制度」を「仕事の成長(より良い仕事の目標)」および「人の成長(そのための自己成長)」の両輪で本来の趣旨通りにしっかり運用することが「人の成長を促進する」組織づくりの第一歩です。
(5)自己認識と自己育成が人と組織を成長させる。
少なくとも企業においては、既に「幼児期の人格的原型」を形成し、学校教育も修了した後の人の「成長」や「育成」の本質(中核、エネルギー源)は、「自己認識」に基づく「自己育成」以外にはありえないだろうと思います。
つまり、その人自身が自ら省みて、「もっとこうしたい・こうありたい」と思うかどうか、さらにそのために「自ら学び、変わろう」とするかどうか、逆に言えば「このままでいい・どうしようもない」と諦めないかどうかです。
「職場の中の困った人たち」についても、最大の問題は、「社会性や共同性」の欠如であると同時に、相手や組織や社会の視野で自身を顧みるという「自己認識の欠如」であり、そうした人たちの成長のカギは、実は「自己認識」です。
<追記事項>リフレクション・アセスメント・カウンセリングが認識を促す。
教育指導の手法には、「インストラクション」「トレーニング」「コーチング」などがありますが、「リフレクション」は、自分自身を相手側や企業全体や社会全体の視点から振り返り、そこから気付きと成長を引き出す手法です。
「アセスメント」や「サーベイ」もそのひとつで、「360度アセスメント」をそのまま人事評価でなく、教育研修やマネジメントにおける「振り返り-気付き-成長促進」のためのツールとして用いるのが効果的です。
「カウンセリング」はカウンセラーとの1対1の対話を通じて自己認識を深める手法ですが、特に対人的な「成長」のテーマが、メンタルヘルスやパーソナリティーなどのより深い人格的要素に関わる場合に必要でしょう。
(6)上司の日常的な観察と支援が人と組織を成長させる。
① いわゆる「新卒正規雇用」は、長期育成を前提とする雇用であるべきで、決して「即戦力」などではない…少なくとも採用後2年間は「観察育成期間」として仕事や職場とのマッチングの具合やその成長の様子を見守るべきでしょう。
② 筆者が務めていた某メーカーには、かつて下掲のような「自己申告・観察育成表」を用いた「自己申告・観察育成表制度」がありましたが、それはやがて「目標管理表」および「目標管理制度」に置き換わってしまったのは残念です。
③ 今思えば少なくとも「新卒採用後2年間」は、「自己申告・観察育成制度」を残すべきでした。「成果主義」の名のもとに、新人に性急にアウトプットを求めるのは間違いであり、過酷な超過勤務を課すなどは論外です。
<自己申告表と観察育成表の使用例>
① 目標管理制度や人事評価制度を適用する前に、新卒採用者なら採用後2年間は自己申告・観察育成制度の適用対象とすべきでしょう。
② 仕事の量や質に問題がある場合は仕事の調整が必要ですし、職場や仕事上の人間関係上の問題があれば何らかの介入が必要です。
③ 現在の職種や企業自体に能力上・適性上の不安を感じている場合にはカウンセリングが必要です。早期の転職支援も考えるべきでしょう。
(7)「分かっている」から「実践している」への転換が人と組織を成長させる。
① 下記の「メンバーシップ」は、組織協働的に仕事を進めようとする人なら誰でもが日常的で当たり前のビヘイビア(言動・態度・習慣)として身に付けていなければならないことです。これを新人だけではなくメンバー全員に徹底すべきです。
② また、「リーダーシップ」とは、「メンバーからメンバーシップを引き出すこと」であるとも言えます。リーダーが「メンバーシップ」を自分自身の「当たり前」にしていること、それを通じてメンバーから「メンバーシップ」を引き出すことです。
③ これらのこと(アセスメントシートに掲載されたビヘイビア)がリーダーやメンバー全員に徹底され、日常的な当たり前のビヘイビアになれば、組織はますます組織であるがゆえのパワーを発揮するでしょう。
<メンバーシップアセスメントシートの使用例>
① 上司が部下を観察するためのシートとして単独で使ってもかまいませんし、部下が自身を評価するためのシートとして単独で使ってもかまいません。
② グーループミーティングの場で、お互いの自己評価結果を発表し合い、気付いたことをコメントし合うだけでも効果があるかも知れません。
③ 部署ごとに実施の合意が得られれば、一人ひとりの被評価者を複数人(できるだけ5人以上)の匿名の評価者が評価するやり方がより効果的です。
④ 被評価者自身や被評価者の上司も、評価者に加えて下さい。本人と上司以外は、本人の仕事ぶりを良く知っている職場の人から選んで下さい。
⑤ 評価者から得られた評価結果は第三者(できれば人事部門)が被評価者単位に評価分布表を作成して被評価者にフィードバックして下さい。
⑥ フィードバックは被評価者を対象とする集合研修の場で行なって下さい。各自のメンバーシップの振り返り-気付き-改善のための機会として下さい。
⑦ 特に自己評価と他者評価のギャップについて、振り返って何か気付くことはないか、今後改善しようと思うことはないかについて発表し合うと良いでしょう。
⑧ 研修の最後に、振り返って気付いたことや今後改善しようと思うことをシートに記入して写しを上司に提出してもらうと良いでしょう。
⑨ アセスメントとそのフィードバックは、あくまで振り返りと気付きと改善のきかっけになれば良く、これを人事評価に直接反映するのは適当ではありません。
<追記事項>マネジメント行動をアセスメントする。
マネジメント層(人と組織を通じて仕事上の成果を出すことを専らとする階層)についてもその成長の促進は、単に「マネジメント」を「知っている」だけでなくず、それを「実践する」以外にはなく、下記のようなアセスメントが有効です。
<マネジメント行動アセスメントシートの使用例>
① 使い方は「メンバーシップアセスメントシート」と同様です。管理監督職のマネジメント行動を、上位上司や部下や仕事上の関係者が匿名で評価します。
② 本人の自己評価と他者による評価の結果とのギャップに注目して、振り返り-気付き-改善のきっかけにすることも同様です。
③ アセスメントとそのフィードバックは、あくまで振り返りと気付きと改善のきかっけになれば良く、これを人事評価に直接反映するのは適当ではありません。