1.対象へのイマジネーション
「イマジネーション」とは、「想像と創造の力」のことです。芸術的な仕事なら「美というイメージを作品に対象化する」ことがですが、一般的な仕事でも例えば「相手に伝えたいことを文書化する」のは基本的にはこれと同じです。
文書を作って相手に届けてその「内容や意図」を伝える、という仕事のモデルで言えば、先ずは「意味や意図」という「イメージ」を明確に頭の中に描いて、これを文書に「対象化」する(文書化する)ことが必要です。
そうした「対象化」の努力や工夫は、「考えることは悩むこと、書くことは苦しむこと」であり、自分とイメージとの間、自分と文書の間で、何度も何度も行ったり来たり(イメージの反芻、文書の推敲)することです。
自分 ⇔ イメージ ⇔ 文書 ⇔ イメージ ⇔ 相手
(説明)
① 相手に伝えたい意味や意図を、自分自身が正しく認識・把握する。
② 上記①のイメージを文書化する。
③ 上記②の文書を自分が読んで①のイメージが伝わるようになるまで推敲。
④ 上記②の文書を相手が読んで①のイメージが伝わるようになるまで推敲。
①~②のイメージを文書化することは、それほど簡単なことではなく、先ずは伝えたい「イメージ」を正しく認識・把握するために、相手がそこにいると思って、言いたいことを実際に「口に出して言ってみる」ことをお奨めします。
何度か口に出して言ってみて、矛盾や過不足が無くなってきたら、言いたいことを項目立てて(1.結論、2.理由、3.提案、などのようにして)箇条書きに書いてみること、その後、推敲と添削を繰り返すことをお奨めします。
2.相手へのイマジネーション
さらに重要なことは、前掲③④の「相手がその文書を読んで何をイメージするか」という「相手のイメージをイメージする」ことです。相手の脳裡をカンバスのようして伝えたいイメージを描き込むようにすることです。
もちろんこのことは「文書を作成する」という仕事に限らず、コミュニケーション一般にも、仕事一般にも通じます。「相手へのイマジネーション」を持つことは、コミュニケーションにおいても仕事においても最も重要なポイントです。
仕事の対象が「人」である場合は勿論ですが、仕事の直接の対象が「物」である場合でも、それを利用するのは「人(相手)」なのですから、「相手(利用する人)へのイマジネーション」は同様に欠かせません。
<追記事項>相手の心情へのイマジネーション(思いやり)
筆者がある病院の新人看護師を対象にセミナーを行っていたとき、筆者の「仕事を進める上で一番大切だと思うことは何か?」と聞いたところ、「相手への思いやり」という言葉が最大多数の共感を得ました。
孔子が弟子に「人間として一番(それ無くしては人間でなくなってしまうほどに)大切なことは何ですか?」と問われて「それ、恕(じょ)か」と答えたのと同じで、相手の悩みや苦しみを自分の悩みや苦しみとして感受できる…。
3.仕事へのイマジネーション
①設計のある仕事
絵画を描くのに「デッサン」が必須であるのと同様に、少なくとも「物」を直接の対象とする仕事(技術や製造など)に「設計」は必須であり、「人」を直接の対象とする仕事(サービス業など)にも実は「設計」が必要です。
例えば「顧客データをリストアウトする」というような一見単純に見えるような仕事のモデルにおいてでさえ、相手や目的に応じて、抽出条件や出力項目や並び順をそれぞれ「どうするか」は、まさに仕事の「設計」の問題です。
いきなり作業にとりかかるのではなく、あらかじめ仕事の完成像や進め方を明確にしてから(少なくとも文書化して自分以外の人にも見れば分かるようにしてから)作業にとりかかる必要があります。
②シミュレーションの力は仕事の力
ITシステムの開発という仕事は、業務分析⇒基本設計⇒詳細設計⇒製造⇒テスト⇒運用、という手順で進めますが、実は、どのような仕事にも基本的にはほとんどこれと同じ段階的なプロセスが必要です。
ITシステムの例でいえば、起こりうるあらゆるケースを想定し尽くしてその場合の動作を設計に織り込んでおかないと(あらゆるifやcaseを想定し、対応できるようにしておかないと)システムは暴走または停止してしまいます。
仕事を設計するということは、あらかじめあらゆる事態をイマジネーションし、シミュレーションし、設計として織り込んでおく(組み込んでおく)ということであり、機械系の仕事でも人間系の仕事でもこのことは異なりません。
③計画的な仕事
湯川秀樹氏は、後進の研究者への指導において「過去を言うように未来を言え」と諭したそうです。のちに実験や観測によって実証される原理や法則を数十年も前に理論で導く理論物理学者らしい言葉です。
このことは、実は新たな仕事を「計画」する際にも通じることで、まるで過去にその仕事を完成させた経験があるかのように「計画」を示して人と組織を導くことができるのが「計画」的な仕事の力です。
また、どんな偉業も「一日」や「一歩」の積み重ねです。では仕事の「完成」の「ためには」どのような「一日」や「一歩」を今必要なのかを選びとれるのはイマジネーションの力です。
「仕事を進める上で大切なこと」は、「イマジネーション」であると、筆者は考えます。それは、「気付き」や「心配り」や「想像力」と言っても良い、仕事の「相手」と「完成」に向けたイマジネーションの力です。
2_1 仕事の「相手」に向けたImagination
どんな仕事にも、「相手」がいます。「書類のコピーをとる」という仕事についてでさえ、「相手」が何のために、いつまでに、どのようなコピーが欲しいのかをイメージできるのとできないのとでは仕事の価値が格段に違います。
仕事の上での日常的な報告においても、その相手へのイマジネーション(気付き・配慮・想像力)が働くかどうかで効果は格段に違ってきます。早口で一方的にまくし立てるようなやり方ではコミュニケーション自体が成り立ちません。
報告の上手・下手は、まさに相手が知っていること、知りたいこと、相手に伝えたいことがどのように相手に伝わり、理解されるかということ、総じて相手へのイマジネーションが足りているか・いないかの違いなのです。
2_2 仕事の「完成」に向けたImagination
どんな仕事にも、「こうしたい」というイメージがあるはずです。「書類のコピーをとる」という仕事でさえ、その目的に即した完成のイメージを思い描くことができ、その完成に向けて、個々の作業を統合的に進めることができる…
もう少し複雑な、人との協働を必要とするような仕事においても、このことは同じで、例えば「家を建てる」という仕事や、「商品を売る」という仕事についても、それぞれの目的に即した「完成」のイメージがあるはずです。
どんな仕事でも、それを進める上で先ず必要なことは、やみくもに個々の作業に着手することではなく、あらかじめその仕事の「完成」のイメージを自ら思い描き、言葉や図表や文書で表現して見せることです。
2_3 仕事の「プロセス」に向けたImagination
「ローマは一日にして成らず」という言葉の通りですが、どんな仕事もその大小にかかわらず「その場しのぎの付け焼刃」や「学生時代のような一夜漬け」では、少なくともプロフェッショナルの仕事としては成り立ちません。
仕事の完成のイメージが描けたら、「そのためには何をどうすべきか」さらに「そのためには~」さらに「そのためには~」と逆算して、いつまでに何をすべきかを洗い出してみて下さい。また、そのために普段からの備えをして下さい。
また、どんな仕事もその難易にかかわらず、何らかの困難や制約や障害を伴うはずです。「備えあれば憂いなし」の言葉の通り、仕事のプロセスで生じうることをあれこれ想定し、予め手を打っておくことが必要です。
<追記事項> 気付きと配慮
何度も引用しますが、筆者がある病院で新人看護師を対象とするオリエンテーションを行った際に、「仕事をする上で何が一番大切だと思いますか?」という筆者の問いかけに、最初に返ってきた返事が「相手への思いやり」でした。
「相手の痛みや苦しみや悲しみを自分のことのようにして感受し、相手のために自分たちができる最善のことをする」という意味だと思います。それを更に一般化して「気付きと配慮」と言い換えれば、どんな職業にも共通するはずです。