1.マグレガーのY理論
マグレガーはマズローの理論を援用して、従業員のより高次の欲求の充足ということを原動力においた人事管理の理論に立つべきことを主張し、これを「Y理論」と名付け、その骨子を次のように述べています。(前掲書より引用)
① 仕事で心身を使うのは、人間の本性である。
② 人間は自分が進んで設定した目標のためには、自分から進んで働く。
③ 最大の報酬は自己実現の欲求の満足である。
④ 人間は、条件次第では、みずから進んで責任をとろうとする。
⑤ 想像力や手段や創意工夫を尽くす能力は、たいていの人に備わっている。
⑥ 現在の企業では、従業員の知的能力が、ほんの一部しか活用されていない。
2.自らを動機づけることができる人
① より良く働く人=より良く生きる人
人生の最も健康的で輝かしい時間の大半を費やしてまで、我々はいったい何のために「仕事をする(働く)」のでしょうか。端的に言えば「生きる(賃金を得て生計を立てる)」ためでしょうか。では何のために「生きる」のでしょうか?
何のために「生きる」のかという問いに対しては、おそらく「より良く生きるため」としか答えようがなく、何のために「仕事をする(働く)」かという問いに対しても、おそらく「より良く仕事をする(働く)ため」が答えでしょう。
② 目的を達成し、価値を実現する人
人間にとって「仕事をする(働く)」ということは、必ずしも「賃金を得る」ことでもなく、経済的な価値(財やサービス)を実現するだけでなく、もっと豊かな人間的・社会的な諸価値を実現することであると筆者は思います。
例えば現に、「真・善・美」という価値を実現しようとしている研究者や芸術家や、「自由・平和・幸福」という価値を実現しようとしている思想家や活動家も、我々と同じように日々「仕事をして(働いて)」いるのです。
③ 目標をもつ人
目標とは必ずしも経済的・定量的・数値的な目標に限りません。人が何らかの目的を達成したり、何らかの価値を実現するために「仕事をする(働く)」上で、「こうしたい」と希求する「状態」のことを言うと筆者は思います。
またそれは目的の達成や価値の実現に限られず、そのために同時に、「仕事をする(働く)」ことを通じて「こうありたい」という自分自身に向けた「成長(自己実現に向けた自己成長)」をも意味するのだと、筆者は思います。
④ 自分自身を成長させる人
成長というのは必ずしも「仕事をする(働く)」ための技量の上達だけを言うのではありません。組織的な協働を通じて養われる、コミュニケーション力をはじめとする人間的・社会的諸能力(IQ×EQ=SQ)の力の向上を言います。
自己実現の欲求(「こうしたい」と希求する状態をますます達成しようとし、「こうありたい」と希求する自分にますます成ろうとする欲求)に導かれるままに自分を成長させる人が、ここでいう「成長する人」です。
⑤ 協働する人
「組織(や企業)」とは、人々が共通の目的の達成や、価値の実現のために、お互いに協働する関係や状態のことです。そこに「組織(や企業)」という実体があるわけではなく、そこにあるのは「協働し合う人々」とその関係です。
そして「協働」とは、あらゆる種類の仕事をこなす異なる技能と知識をもつ人たちによる、共通の目的と価値への相互的な(総合的な)コミットメントであり、自らのアウトプットを他の最適なインプットにすることです。
⑥ 自らをマネジメントする人
マネジメントの最も重要な機能は、「Decision(選択と決定)」とそれに向けての「Orientation(方向づけ)」および「Motivation(動機付け)」であり、それらを通じた「Eucation(成長の促進)」です。
また、有限の資源(企業の場合で言えばヒト・モノ・カネ・情報・時間)をやりくりしながら、次々に立ち現れる困難や矛盾を何とかしながら、決して言い訳をせず、人のせいにもしないことが「自己マネジメント」です。
⑦ 解決する人
現実は常に困難や矛盾に満ち、対立も後を絶ちませんが、必ずしも「安易に迎合・妥協する」ことや「AとBを足して2で割る」ことや「無理を通して道理を引っ込める」ことが「解決Solution」でもありません。
目的(何のために)や相手(誰のために)への思慮と発想を拡げれば解の成り立つ余地も拡がります。お互いの根底にある真のニーズに目を向け、争いを止めて互譲することが解Solutionに至る途です。
<Y-theory を生じさせる組織の力学>
組織や企業にとって「Y-theory の人々(仕事をすること自体に自分自身を動機付けることができる人々)」が多ければ多いほうが良く、「X-theory の人々(できるだけ仕事をしないで済まそう、過ごそうとする人々)」が少なければ少ないほうが良いような気がします。
では極端に言って、組織や企業にとって、「Y-theory の人々」で満たし、「X-theory の人々」を排除してしまうのが、本当に良いことなのかどうかは、実は分りません。(XとYの分類は相対的なものであり、現実にXだけ、Yだけの組織や企業は無いからです。)
おそらく現実の組織や企業は、リーダーとその元での、一定割合の「X-theory の人々」と、それに対応する一定割合の「Y-theory の人々」との Power of Balance の上で成り立ち、機能しているような気がします。
リーダー自身が「Y-theory の人」でなければならないことは言うまでもありませんが、もっと重要なことは、「X-theoryの人」を排除することではなく、その組織や企業の多数および主流を「Y-theory の人」に導くことです。
① 先ず何よりも、リーダー自身が「Y-theory の人」であること。
② そのことが、メンバーから認知され、評価され、信頼されること。
③ そのことが、メンバーの動機付けや、成長促進の要因になること。