(1)ストレスのマネジメント
組織で働く以上、多少のストレスは止むを得ない(むしろ成長のバネになることもある)でしょうが、それでも過剰なストレスが継続するとモラールやモチベーションの低下だけに留まらす、メンタルヘルス上の問題を生じます。
そうなる前に早めに自分の(および部下の)ストレスの原因因子と心身反応、およ反応に影響を与える因子に気付き、それらに働きかけて、ストレスを除去したり緩和したりする努力(コーピング)が必要です。
(参考:「5分でできる職場のストレスチェック」(厚生労働省)より。一部筆者編集) http://kokoro.mhlw.go.jp/check/
<ストレスの原因因子>
□ 非常にたくさんの仕事をしなければならず/時間内に仕事が処理しきれない
□ 一生懸命働かなければならない
□ かなり注意を集中する必要がある
□ 高度の知識や技術が必要なむずかしい仕事だ
□ 勤務時間中はいつも仕事のことを考えていなければならない
□ からだを大変よく使う仕事だ
□ 自分のぺースで仕事ができない/自分で仕事の順番・やり方を決められない
□ 職場の仕事の方針に自分の意見を反映できない
□ 自分の技能や知識を仕事で使うことが少ない
□ 私の部署内で意見のくい違いがある
□ 私の部署と他の部署とはうまが合わない
□ 私の職場の雰囲気は友好的でない
□ 私の職場の作業環境(騒音、照明、温度、換気など)はよくない
□ 仕事の内容は自分にあっていない
□ 働きがいのない仕事だ
<ストレスによる心身反応>
□ 活気がわいてこない/元気がない/生き生きとしていない
□ 怒りを感じる/内心腹立たしい/イライラしている
□ ひどく疲れた/へとへとだ/だるい
□ 気がはりつめている
□ 不安だ/落着かない
□ ゆううつ/何をするのも面倒/物事に集中できない/仕事が手につかない
□ 気分が晴れない/悲しいと感じる
□ めまい/体のふしぶしが痛む/頭が重い、頭痛がする/首筋や肩がこる
□ 腰が痛い/目が疲れる/動悸や息切れがする
□ 胃腸の具合が悪い/食欲がない/便秘や下痢をする
□ よく眠れない
<ストレス反応への影響因子>
□ 上司・同僚・配偶者・家族・友人等と気軽に話ができる・できない
□ 仕事に満足・不満
□ 家庭生活に満足・不満
上記を調査票形式にしたものをご参考に供します。
<追記事項>
継続的かつ長時間の超過勤務が心身の健康に悪影響を及ぼすことは周知のとおりですが、ただ単に超過勤務の時間数そのものが心身の健康への影響度と直ちに比例するものではないはずです。
ストレスチェックにおけるストレス判定図に見られるとおり、同じ程度の量的負荷であっても、①それが自分でコントロールできるかできないか、②上司や同僚の支援を得られるか得られないかによって影響度は大きく左右されるはずです。
つまり、自分でコントロールしにくい超過勤務や周囲の支援を受けにくい超過勤務は健康障害に結び付きやすく、自分でコントロールしやすい超過勤務や周囲の支援を受けやすいちうか勤務は健康障害に結び付きにくい、と言えるはずです。
(2)「うつ病」の診断基準
モラールやモチベーションが高いなら問題ありませんし、多少のストレスがあってもその原因や症状が改善されるなら問題はありません。しかし強いストレスの原因や症状に気付かずにこれを放置すると、「うつ病」の発症につながる場合があります。
「DSM-Ⅳ診断基準」によれば、以下の9つの症状のうち、少なくとも①か②のどちらかを含む5つ以上の症状が2週間以上続く場合は「うつ病」と診断されますので、自分(および部下)の症状に気付いたら、専門医による診療が必要です。
① ほとんど一日中憂うつで、沈んだ気持ちになる
② ほとんどのことに興味を失い、楽しくやれていたことも楽しめなくなる
③ 食欲が低下(または増加)したり、体重が減少(または増加)する
④ 寝つきが悪い、夜中に目が覚める、朝早く目が覚めるなどの睡眠の問題が起こる
⑤ 話し方や動作が鈍くなるか、あるいはいらいらして落ち着きがなくなる
⑥ 疲れやすいと感じ、気力が低下する
⑦ 自分には価値がないと感じ、自分のことを責めてしまう
⑧ 何かに集中したり、決断を下すことが難しい
⑨ この世から消えてしまいたい、死にたい、などと考える
暗く落ち込んだ気分、何も手が付かない、今更どうしようもないことで悩み、自分を責め、眠れず、今までできたこともできず、楽しめたことも楽しめない…これが2週間も続くようならうつ病を疑い、早く医師の診察を受けるべきです。
(3)メンタルヘルスのマネジメント
自分で気付いて受診できければ何よりですが、やはり身近で本人の様子を見ている家族や友人や同僚や上司が、本人の悩みや苦しみに気付き、本人が一刻も早く医師の診断を受けることができるように上手く進める必要があります。
放置すれば症状は重くなり、回復も確実に遅れます。医師の診察と処方に従ってとにかく職場や仕事を離れて休養することをお勧めします。(仕事は思いのほか、本人がいなくてもどうにかなるものです。本人はなかなか信じませんが。)
休養中は、当たり前ですが、本人に何かを強いたり、本人を責めたり、励ましたりせず、本人がゆっくり時間をかけて自分を取り戻すのを支え、見守り、待ってあげて下さい。(「大丈夫、必ず良くなる。」という思いを共有化して下さい。)
<うつ病発症が疑われる場合の対応例>
以下は、いずれも筆者自身のマネジメント上の経験と反省に基づく対応例です。
①早く気づく
本人自身や周囲が、兆候(サイン、愁訴)を見逃さず、本人の不調に気付くこと。元気のない様子、ケアレスミスの多発、遅刻や欠勤の増加など。一人で悩ませず、「気にかけ、目をかけ、声をかけ」という職場環境や習慣を。
②早くつなぐ
家族や友人を介した連絡ルートを確立しておくこと。また一日も早く医師の診察・治療を受けさせること。家族に知られ(せ)たくない、医師に診せたくない場合でも誰か一人とは連絡をつけておく。決して一人で悩ませてはならない。
③とにかく休ませる
職場や仕事から解放し、心やすらぐ環境でゆっくり(短期間の繰り返しでなく、長期間)休養させること。本来組織的であるはずの業務が個人に依存しすぎている場合があるが、かまわず休ませ、あとは組織的協力で何とかする。
④頑張れは禁句
周知のとおり。本人は既に頑張って来たのだから「もっと頑張れ」ではなく「よく頑張っているね」という気持ちや言い方が良い。また本人は「もうだめだ」と思い詰めることが多いので「必ず治る」「大丈夫だ」という気持ちや言い方が良い。
⑤本人を責めない
過去を悔んだり自分を責めたりして病気になる。責めたり、問い詰めたり、追い詰めたりしない。本人は「どうしようもないこと」に悩んでいるので、「悪いことは忘れる」「自分を責めない」ようなアドバイスが良い。「大丈夫、必ず良くなる」というメッセージを伝える。
⑥どうでも良いことと重要なことは先送りさせる
まずは心身を復調させることが第一なのだから、それ以外のことは「どうでも良い」と割り切る。また、この時期に取り返しのつかない(将来を大きく左右するような)重要な意思決定をさせてはならない。
⑦診断書が出たら・・・
医師による「(一定期間の)休業・療養を要する」旨の診断が行われたら、その内容に従ってとにかく休ませる(本人や家族の同意をとる必要はない。)有給休暇がある場合にはそれを先に消化させ、有給休暇を消化し終わったら病気欠勤で処理する。
病気欠勤(これに準じる不就業・不完全就業も含む)が一定期間継続(または不連続・断続的に続く)しても治癒しない場合(通常期待される勤務が継続的にできない場合)は、就業規則に基づいて休職を発令する。
休職からの復帰(復職)には主治医の判断だけではなく、産業医の判断と経営労務管理的判断が必要。その旨就業規則にも明記しておく必要がある。通常期待される勤務が継続的にできなければ「治癒」とは言わない。
治療の一環として、「試し出勤」を休職期間中に行う。長い休職期間が明けて直ぐに通常勤務させるのは無理。医師と相談し、本人・職場同意のもとで無給の「試し出勤」を行ない、その後通常期待される勤務が継続的に行える見通しが立ったところで復職を命じる。