設問)パワハラを防ぐために、何を知り、何を行うべきか?
A1)裁判に現れた「パワハラ」の事例に学ぶ
「パワハラ」は「それと気付きにくい」のが特徴のひとつですので、その意味で過去の裁判例が参考になります。(必ずしも損害賠償請求が認められた事例でないので、「こんなことでパワハラに?!」という発見があるはずです。)
厚生労働省_「あかるい職場応援団」~裁判例を見てみよう~から
https://www.no-pawahara.mhlw.go.jp/foundation/judicail-precedent/index
① 会社が職場内でのいじめや嫌がらせを認識しながら何ら対応をしなかった場合、会社が職場環境配慮義務違反に基づく損害賠償責任を問われうる。
<国・京都下労基署長(富士通)事件 大阪地裁平22.6.23判決>
② 上司と部下の間の人間関係が良好でない場合、上司から部下への言動が悉く「嫌がらせ」等として部下から裁判上で主張される。
<全国社会保険協会連合会配転無効確認等請求事件 大阪地裁平18.3.17判決>
③ 部下にとって不名誉な事柄について、他の社員のいる前で不用意に問い質したりすることは、配慮に欠ける言動として、不法行為を構成する場合がある。
<富国生命保険ほか事件 鳥取地裁米子支部 平21.10.21判決>
④ 妊娠を理由とする中絶の勧告、退職の強要及び解雇は、雇用機会均等法9条の趣旨に反する違法な行為とされる。
<今川学園木の実幼稚園事件 大阪地裁堺支部 平14.3.13判決>
⑤ 厳しい注意があっても、自殺の予見可能性が無く、それを防止するための措置を採ることができたとは認められない場合は、損害賠償責任は問われない。
<北海道銀行(自殺)事件 札幌高裁 平19.10.30判決>
⑥ 必ずしも自身に対するパワハラでなくても、実際にパワハラを受けている者との関係によっては、大きな心理的負荷を受けていると判断されることがある。
<公災基金愛知県支部長事件 名古屋高裁平22.5.21判決>
⑦ 上司の発言が社会通念上、精神障害を発症・増悪させる程度に過重な心理的負荷を有するものとして、労災の業務起因性の判断要素として考慮されうる。
<奈良労基署長(日本ヘルス工業)事件 大阪地裁平19.11.12判決>
⑧ 不合理・不当な教育訓練命令が、裁量権を逸脱または濫用し、社員の人格権を侵害する違法な行為であり、不法行為に当たると判断される場合がある。
<最高裁二小 平8.2.23判決 仙台高裁秋田支部 平4.12.25判決>
⑨ 上司が部下の私生活上の問題につき、職制上の優越的地位を利用して、一定の解決策を執拗に強要することは、不法行為責任を負う場合がある。
⑩ 業務の分担を巡るやりとりに起因した従業員による暴行は業務の執行につきなされたものであり、加害社員と共に使用者も損害賠償責任を負う。
⑪ 労働者を退職させるための嫌がらせが代表取締役の指示ないし了解の下に行われたから、代表取締役個人及び会社が連帯して損害賠償責任を負う。
⑫ 本来予定されていない業務への就労を命じることが正常な人事管理権の行使とはいえず、著しく苦痛を与えたものである場合は不法行為が成立しうる。
A2)上司の仕事は部下の「指導」よりも部下の「支援」であると心得る。
① 「育成責任」という言葉を聞くと、「上司は部下を管理監督し、指導育成するのが仕事だ」と思いたくなるかも知れませんが、現実にはそんなことが部下から期待されているわけでも現場で奏功しているわけでもありません。
② 筆者がある企業で行った人事マネジメントセミナーにおいて「上司に最も期待する役割機能は何か?」と問いかけたところ、「判断」や「責任」が上位を占め、「育成」は選択肢の中では最下位でした。
③ 部下が上司に(上司が部下に)期待していることは、「自分の仕事がしやすくなるようにしてほしい」ということであり、上司は行うべき判断を行い、負うべき責任を負うことで部下が仕事をしやすいようにするのが仕事なのです。
④ ただし、上司の主な仕事が「部下の指導育成」では無いとしても、企業は人を成長させる(人の技術力や共同性や社会性を高める)場であり、主に仕事を通じた上司-部下間の関係が、部下を成長させることに変わりはありません。
<参考>