採用から退職までの人事マネジメントをHRMS=Human Resources Management Systemとイメージするなら、採用はその最初にして最も重要なプロセスであり、その成否は以降の主要プロセスの成否を決定します。
採 用 → 目標管理(MBO) → 人事処遇
↑ ↓
退職管理 人(Human Resources) 育 成
↑ ↓
報酬管理 ← 人事評価 ← 就業管理
つまり、「採用してはいけない人」を採用してしまったら、育成で何とかしようとしても、目標管理や人事処遇で何をしても効果はなく、労務管理では問題を連発し、人事評価で最低評価を付けたところで何の解決にもなりません。
たった1日から長くて数日の「採用選考」だけで、その企業が将来にわたって「無期雇用」のリスクを背負って良いはずがありません。採用選考~試用期間~育成期間のプロセス全体で採否を判定し、「採用ミス」を防ぐべきです。
(1)もちろん採用選考のプロセスの適正化が第一
もちろん、採用ミスを防ぐ第一の方法は、採用選考のプロセスの適正化です。資質・能力・指向・行動の四適性の見極め、また、「こういう人を採ってはいけない」し、「こういう面接をしてはいけない」のは、既に述べたとおりです。
「こういう人を採ってはいけない」で紹介した「ネガティブチェック」を徹底すべきです。誰にでも「気になる点」がいくつかあるはずで、それが配属後の「困った人たち」につながらないように面接官どうしでよく協議して下さい。
「気になる点」や「よく分からない点」はそのままにしたり先送りしたりせず、必要なら一定期間後に再度面接を行うなどして、できる限り採用選考のプロセスの中で権限と責任を持って、採否判断をはっきりさせて下さい。
<追記事項>採用選考プロセスへのフィードバックが必要
配属先から「採用ミス」の声が上がる場合がありますが、そうした声をよく聞いて採用選考プロセスの改善に役立てることが肝要です。「採用ミス」と言われる状況や原因は何か、次回の採用選考に配属予定先の参加を求めるなど…
(2)試用期間のプロセスの適正化が必要
どの企業の就業規則にも6か月程度の「試用期間の定め」が規定されており、かなり大幅な解雇要件(採用取消の要件)が留保されているはずですが、これが規定の趣旨どおり各職場で厳格に運用されている例はあまり多くありません。
例えば「採用した日から6か月間を試用期間とする」「試用期間中に従業員として不適格と認めた者は、解雇することがある」と規定されているだけで何ら適格性の判断を制度的に行なうことなく、試用期間を徒過させてはなりません。
① 試用職場には、履歴事項だけでなく、採用選考における「選考記録(特に適性判定上の懸念事項を記したネガティブチェックリスト)」の申し送りが必要です。これに基づいて試用職場で「観察と指導)」を行って下さい。
② 人事部門と連携しながら、試用職場における「観察と指導」を通じて「本採用」の可否判断を行うことが必要です。試用職場における日常的な行動観察と個別指導は、必ず記録(5W2H)を残しながら行って下さい。
③ 「観察と指導」を尽くしてもなお「本採用」を否とすべき合理的な理由がある場合には、人事部門と協議しながら「試用期間延長」または「試用期間の終了をもって解雇(本採用に至らず)する」等の適正手続きを行って下さい。
(3)観察育成のプロセスの適正化が必要
試用期間(6か月~1年)のプロセスで「採用ミス(困った人々)」への対応が十分にできなかった場合は、これに続く観察育成のプロセス(試用期間を含む2年程度の期間)でこれを何とかしなければなりません。
① 「困った人たち」の「何が困るか」を後出の「自己申告表と観察育成表」でチェックして下さい。また、それによって「誰が困るか」を考え、「誰も困らない(無視できる)」ようなら「問題」そのものから除外して下さい。
② それが職場での指導や育成で「何とかなる(何とかする)」問題かどうかを判別し、職場での指導や育成で「何とかなる(何とかする)」項目を洗い出して誰がいつまでにどのようにするかを明らかにして下さい。
③ 職場での指導や育成においては、先ずは相手を否定せず、肯定的に受容し、積極的に傾聴することを通じて相手の自己認識(周囲との不適合を生じている自分自身の適性の偏りへの気付き)を促すことが第一です。
「採用ミス(困った人たち)」への対応
⇒ 「採用選考」のプロセスで何とかする。
⇒ 「試用期間」のプロセス(採用後6か月~1か年)で何とかする。
⇒ 「観察育成」のプロセス(採用後2か年)で何とかする。
なお、試用期間~観察育成の期間に用いる「自己申告表と観察育成表」の実用例については、【付録】をご覧下さい。