設問 )採用活動を強化するのでなく、事業としての採用力そのものを強化するには?
A1)業種や職種による求人の「困難度」を知る。
業種や職種によって採用の困難度に大きな差があるのは当然です。まず初めに、自分の企業が求める職種ごとの求人の「困難度」を客観的に認識して、「ではどうするか?」を考えるべきでしょう。
簡単に言えば、有効求人倍率が高い(1.0を大きく上回る)職種(職業)では、「応募を待つ」だけでは人は採れず、人材紹介業者やスカウト業者などを使ったり、採用条件を差別化したりすべきです。
A2)応募者が企業に求めていることを知る。
ディスコ社が2017年卒の大学4年生と大学院修士課程2年生(理系)の1,137人を対象に、インターネットで実施した「就職を決めた企業の選社理由」を聞くと、下記の順位であったとのことです。
「新卒者による就職先の選択基準(5つまで選択、上位15項目)」
第1位 社会貢献度が高い(31.6%)
第2位 職場の雰囲気が良い(28.0%)
第3位 仕事内容が魅力的(27.2%)
第4位 将来性がある(27.1%)
第5位 福利厚生が充実している(25.5%)
第6位 有名企業である(23.2%)
第7位 給与・待遇が良い(22.8%)
第8位 大企業である(22.0%)
第9位 希望の勤務地で働ける(20.6%)
第10位 業界順位が高い(19.5%)
第11位 世の中に影響力が大きい(17.6%)
第12位 休日・休暇が多い(15.3%)
第13位 製品・サービスの質が高い(13.9%)
第14位 業績・財務内容が良い(13.7%)
第15位 希望の職種に就ける(11.6%)
上記は新卒者たちの「素朴な思い」ですが、多くの応募者が選ぶ「良い企業」というものを応募者側がどのようにイメージしているかが想像できます。上記の項目にいくつ該当するかが、その企業の「採用力」なのかも知れません。
A3)大企業のマネをしなくても人は集まる。
① 企業の目的と価値を鮮明にすること
上記「選択基準」の第1位は「社会貢献度が高い」(31.6%)です。これは企業が文化活動や福祉事業に資財を投じているということだけではなく、その企業が何を達成すべき目的とし、何を実現すべき価値としているかです。
松下幸之助氏は、「水道のように電器製品を世の中に普及する」ことを創業の精神とし、「製品をつくるのではなく人をつくる」ことを経営の指針としましたが、そういうことも応募者が企業に問いかけていることのひとつだと思います。
筆者の目には、大企業の多くや、その系列に属する企業の多くが、創業の精神も経営の指針も見失っているように見えますが、いま一度、各企業の普遍的な目的や価値を見つめなおし、社会に向けて鮮明に発信すべきではないでしょうか?
② 職場に来て、見て、感じてもらう
上記「選択基準」の第2位は「職場の雰囲気が良い」(28.0%)です。職場の雰囲気を感じてもらうためには、先ずは「職場見学」に来てもらわなければなりません。「企業説明」だけでなく「職場見学」を併催すべきです。
何が「雰囲気の良い職場」なのかについては、見る人によって感じ方が違うかも知れませんが、やはり日常的に職場内で交わされるコミュニケーションの良し悪し(「ものの言いやすさ」)が見学者にも感じ取られるようです。
そこに「職場」や「雰囲気」が実在するわけではなく、そこに実在するのは、職場で働く人たちであり、その人たちの言動や態度や関係ですので、それらの「良さ」が「職場の雰囲気の良さ」として感じられるのでしょう。
③ 仕事そのものに動機付けることができるか
上記「選択基準」の第3位は「仕事内容が魅力的」(27.2%)です。「仕事にやりがいを感じられそうか?」です。先の「職場の雰囲気」とも関連しますが、職場の人たちが「仕事に動機付けられているか」どうかによります。
福利厚生条件(第5位)や給与処遇条件(第7位)も大事ですが、それよりも「仕事のやりがいや仕事への動機付け」(第3位)のほうが大事だと、誰よりも新卒者・応募者自身がそう言っているという事実に注目すべきです。
「仕事のやりがい」というのは、その仕事を通じて得られる自己達成感や自己成長感です。経営者が企業の目的と価値を示し、職場の人たち自身がそれに向けて動機付けられていれば、応募者も「自分にも出来そうだ」と感じるでしょう。
<追記事項>「正規雇用」と「非正規雇用」
政府は「同一労働同一賃金」をスローガンのひとつに労働政策を展開していますが、これをより実務的に言えば「機会的な非正規雇用を正規雇用に」ということと、「非正規雇用の労働条件の改善」ということなのでしょう。
「機会的な非正規雇用」 とは、「本来は正規雇用が希望だったが、機会に恵まれず非正規雇用となった」人たちであり、企業側から言えば「本来は正規雇用で採るべきところ事情があって非正規雇用とした」人たちです。
これらの「機会的非正規雇用」の人たちには、常に「正規雇用への転換」の機会が開かれているべきであり、企業も「本来は正規雇用で採るべき」人たちを敢えて「非正規雇用」で採るようなことをすべきでない、と筆者は考えます。
企業は、「本来は非正規雇用で採るべき」人たち(真に臨時的な、又は補助的なニーズに基づく採用)を「正規雇用」の名を借りて採るようなこともすべきでなく、「正規雇用」と「非正規雇用」は企業ごとに峻別すべきです。
企業は、そうした峻別の上で、そのニーズに応じて「正規雇用」と「非正規雇用」の募集と採用を行ない、併せて「非正規雇用」の労働条件が「正規雇用」の労働条件に比較して「不合理な格差」を生じないように改善すべきです。