設問)「採用ミス」を防ぐにはどうすれば良いか?
A1)ポジティブチェック_「この人となら一緒に仕事をしたい」と思う人を選ぶ。
企業の人事管理という職業に30年以上も携わってきた筆者がまだ若いころ、採用選考基準に関して先輩社員に教わった言葉が「自分が、この人となら一緒に仕事をしたいと思うような人を選べば良いんだよ」という言葉です。
採用選考基準としてそれ以上に的確な言葉に、筆者は未だ発見できていません。「自分自身が(他人事でなく)」「一緒に仕事をしたい(=組織的協働)」「と思う(主観と経験)」「人(人間性)」を選べばよい、という意味です。
上記の前提で筆者が推奨する選考要素は「資質・能力・指向・行動」の四適性になります。四つの適性において「この人となら一緒に仕事をしたい」と思う人を選べばい良いのです。(詳しくは「こういう人を採ってはいけない」を…。)
□ 資質適性 … その候補者が「どのような人か」ということ。
□ 能力適性 … その候補者が「何ができる人か」ということ。
□ 指向適性 … その候補者が「何をしたいと思っている人か」ということ。
□ 行動適性 … その候補者が「どうのような行動をする人か」ということ。
A2)ネガティブチェック_「この人とは一緒に仕事をしたくない」と思う人を避ける。
ネガティブチェックのポイントについても「こういう人を採ってはいけない」の稿のとおりです。①年齢不相応に未熟に感じる人、②パーソナリティーに偏りがある人、③採用後の育成ではどうにもならない人を採ってはいけません。
<ネガティブチェックのポイント>
未熟性
□ 受動的
□ 依存的
□ 単純な行動
□ 浅く移り気な興味
□ 短期的展望
□ 従属的
□ 自己認識の欠如
【A群パーソナリティー障害】奇妙で風変わりに見える。
□ 親密な関係で急に不快になる。認知的・知覚的歪曲、行動の奇妙さ。
□ 社会的関係からの遊離、感情表現の範囲が限定される。
□ 他人の動機を悪意のあるものに解釈するといった、不信と疑い深さ。
【B群パーソナリティー障害】演劇的で、情緒的で、移り気に見える。
□ 他人の権利を無視しそれを侵害する。
□ 対人関係、自己像、感情の不安定および著しい衝動性。
□ 過度な情動性、人の注意をひこうとする過度の言動。
□ 誇大的で、賞賛されたいという欲求、他人への共感の欠如。
【C群パーソナリティー障害】不安・恐怖を感じやすい。
□ 困難や他人との密な接触を回避する。他人からの否定的評価に対して過敏。
□ 世話をされたいという全般的で過剰な欲求のために従属的でしがみつく。
□ 秩序、完全主義、コントロールすること、に非効率的なまでにとらわれ。
【採用後の育成ではどうにもならないこと】
□ 著しい社会的未熟性(「まともなコミュニケーションが成り立たない」)
□ 絶対的な「論理的」能力の欠如(「何を言っているのかわからない」)
□ 基本的に組織的協働になじまない指向や言動(「唯我独尊」)
A3)ネガティブチェックのポイントを面接で見逃さない。
また、これらのネガティブチェックのポイントを、面接選考でスルー(無視する、見逃す、そのままにする)してはいけません。面接のポイントについては既に述べた通り(「こういう面接をしてはいけない」)です。
どんな候補者でも面接選考や観察選考を通じて「ちょっと気になる点」はあるはずです。「採用ミス」のほとんどは「そう言えばあのときちょっと気になっていた」という場合がほとんどです。(「採用ミス」の「兆し」)
「何とかなる」「皆が言うならそれでいい」「一人でも多く採用したい」などと、受動的・依存的・短視的な判断や選択をしてはいけません。「ちょっと気になる」点を大事に、複数の面接者間で共有し、責任ある採否判断をして下さい。
<こういう面接をしてはいけない>
□ 候補者が極度に緊張し_ほとんど何も話せない。
□ 候補者が「台本」を読み上げる_候補者の本音が見えない。
□ 話がかみ合わない_面接でコミュニケーション自体が成立していない。
□ 候補者に「はい」「いいえ」しか言わせない。
□ 候補者の適性を候補者自身に聞いても無駄。
□ 採否がはっきりしない_「どちらとも言えない」で採用してはならない。
A4)「採用ミス」から「学習」する。
採用選考の場で最も重要なことは、面接者の「気付き」です。それは必ずしも何らかの技術や理論で解決するものではなく、多くは面接者側の経験、とくに「今までの採用ミスから学んだこと」の多さに依存します。
「採用科学」の立場からは採否判定が主観的であることや経験的であることを慎まなければならないかも知れませんし、「採用技術」の立場からは、統計的手法による選考プロセスの合理化を追求すべきかも知れません。
筆者自身は、採用選考は候補者一人ひとりとの丁寧な面接を通じて、大いに面接官どうしで、お互いの主観(「自分はこう感じる・おもう・考える」)と経験(「**の場合はこうだった。」)をぶつけ合うべきだと思います。
A5)一人で決めない、一度で決めない。
人事評価と同様に、採用選考でも「一人で決めない、一度で決めない」という原則が通用します。面接選考においては、候補者1名に対して複数の面接者で行う「1対Nの面接」が基本であり、段階的な「N次面接」が、やはり基本です。
面接者に人事部門の責任者だけでなく、配属予定職場の責任者に参加してもらうのは当然です。候補者から上手く話を引き出すことができる人、特に「採用ミス」の経験知を共有化できる人を面接者に選ぶべきです。
一人の候補者に対する面接がおわったら、その都度、面接者間で意見交換を行うことをお勧めします。(候補者が2~3人程度なら、全員の面接がおわってからまとめて面接者間での意見交換を行ってもかまいませんが。)
<追記事項_20170205>評価の「信頼性・妥当性・納得性」
筆者は「主観と経験」を重視(関係者間での着眼点と結果の相互理解による信頼性・妥当性・納得性の向上が必要)しますが、いわゆる「客観テスト」による学力や能力や適性の判定の結果を無視して良いとは決して考えていません。
「客観テスト」による学力や能力や適性の判定の結果が良いならそれに越したことはありませんが、それだけで測ることなく、それと同時に面接官の「主観と経験」に基づく評価の着眼点・理由・結果を重視して欲しいという立場です。
「IQ」を横軸、「EQ」を縦軸として考えた場合と同じように、「IQの高さは、EQが高ければ高いほど良く発揮される」と考えて、客観テストの成績の良さが、その人となりを通じて社会的に有効に発揮されるかどうか…。
<追記事項_20170205>学歴重視の立場
中途採用では「職歴重視」が多数派なのに、新卒採用では「学歴重視」が多数派でないとしたら不思議です。そのうえで主体性や実行力(いずれも企業が最も重視する特性)を判断すると言っても、「いったいどうやって?!」です。
今まで数年から十数年以上も学んできたことについて、どういう点に興味を持ち、どういうことを感じ、思い、考え、学んできたかを問うことは、当たり前であり、そのことを通じて候補者の主体性や実行力が「推定」されるのでしょう。
もちろんそれは決して「証明」ではなく、あくまで「推定」です。採用選考のプロセスにおいて候補者の主体性や実行力は「証明」できません。それを「証明」できるのは、採用後の実績評価においてでしかありません。
<追記事項_20170412>採用選考では「育成ではどうにもならない」要素に着眼する。
例えば「専門的な知識や技術」なら、採用後の育成過程で「何とかなる」ので、採用選考ではあまり重視しすぎないほうがよく、むしろその人の「パーソナリティー」など、採用後の育成ではどうにもならない要素に着眼すべきです。
採用した以上は、企業や職場に育成責任があり、育成努力をするのは大切なことですが、前述の、①年齢不相応な未熟さ、②パーソナリティーの偏りは、おそらくどのように育成の手を尽くしても「何とかなる」問題ではないでしょう。
採用選考で重要なことは、面接者が何を感じ、気付くかであり、特にそれが候補者のネガティブな要素である場合に、「それが採用後の育成プロセスで何とかなる(する)要素なのか、「どうにもならない」要素なのかの見極めです。