設問)解雇という問題にどう対応すれば良いか?
A1)「辞めてもらわなければならない」人を採用してはならない。
病気や障害や老齢の問題を除けば、「ローパーフォーマー」や「職場の困った人たち」が悩みの所在かも知れませんが、そもそもそうした人たちを採用選考や試用期間や育成期間で「何とかする」ことはできなかったのでしょうか?
企業には「解雇の制限」「育成の責任」と同時に、大幅な「採用の自由」があるのですから、そうした人たちの問題に悩まないで済むように、採用選考のプロセスや試用期間のプロセスや観察育成のプロセスを見直すべきです。
A2)新人がある程度辞めるのはやむを得ない(定着率を適正に保つ努力は必要)。
厚生労働省の調査によれば、平成23年3月新規卒業者の卒業後3年以内の離職率は、以下のとおりです。(厚生労働省_雇用の構造に関する実態調査(若年者雇用実態調査)_平成26年9月15日発表)
大学 32.4%( 前年比 1.4 ポイント増)
短大等 41.2%(同 1.3 ポイント増)
高校 39.6%( 同 0.4 ポイント増)
中学 64.8%( 同 2.7 ポイント増)
また、同じく厚生労働省が発表した「第6回21世紀成年者縦断調査(国民の生活に関する継続調査)結果の概況」(平成21年3月11日)によれば、「1年前の仕事をやめた者の退職理由」は、次のとおりです。
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/judan/seinen09/kekka3-5.html
(第5回調査正規(男性)→第6回正規(男性)の退職理由・降順)
①給与・報酬が少なかったから・・・40.7%
②事業又は会社の将来に不安を感じたから・・・ 31.7%
③労働時間が長かった・休暇が少なかったから・・・30.9%
④会社の経営方針に不満を感じたから・・・30.1%
⑤能力・実績が正当に評価されなかったから・・・21.1%
⑥新しい仕事がみつかったから・・・18.7%
⑦人間関係がうまくいかなかったから・・・13.8%
⑧自分の希望する仕事ではなかったから・・・13.0%
大卒新人(男性)で「最初の3年間で3割は辞める」のが現実です。各企業で「新人の定着」に何らかの対策を採る場合は、「最初の3年間の退職率を*割以下にする」という目標を設定して対策を選ぶべきです。
上記①の給与・報酬に関しては、給与費総額を抑制しながら、必ずしもベースアップによらずとも、定期昇給の範囲内でその原資を若年者層へシフトしたり、年功に基づく配分から役割に基づく配分にシフトしたりすることも可能です。
上記③の労働時間・休暇に関しては、職場が「人は減った、仕事は増えた」状態に陥っていることが懸念されますが、必ずしも人員増によらずとも、間接的な業務の無駄を徹底的に省くことで改善できる範囲はまだまだあるはずです。
上記⑦の人間関係に関しては、特定の人間がネックになっていないか、「人間関係」以前に「意思疎通(コミュニケーション)」の問題(阻害要因)がないかどうかなど、個々の職場ごとによく観察・分析・対処すべきです。
<参考:三年以内既卒者等採用定着奨励金_厚生労働省>
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000112026.html
A3)普通解雇のデュープロセス
① 普通解雇の要件に該当する事実関係を観察し、記録する。
… 対象者の問題となる「勤務状況」や「勤務成績」や「勤務態度」等について、いつ、どこで、誰が、誰に、何を、どのように、どうしたかを、原則として直接それを観察した人が事実に即して記録することが第一です。
② 注意・指導を繰り返し、その事実も記録する。
管理監督職や人事担当者が、対象者の問題となる「勤務状況」や「勤務成績」や「勤務態度」等について、いつ、どこで、誰が、誰に、何を、どのように、どうしたか、それに対して対象者はどうしたかを①と同様に記録して下さい。
③ 就業規則の普通解雇の該否および適否を判断する。
①と②を通じて観察や指導の記録が十分に積み重なってきた時点で、それが就業規則上の普通解雇の要件に該当し、これを適用するか否か(対象者との間で争いを生じないか、争いを生じても十分に立証できるか)を判断して下さい。
④ 対象者による改善の機会と期間が必要。
③で普通解雇の要件に該当し、これを適用すべきとの判断に達したら、それを前提に対象者に「このまま改善が見られない場合は解雇もあり得る」旨の通告を行って下さい。本人が改善を誓約するならその旨を文書で提出させて下さい。
⑤ 解雇以外の問題解決が出来ればなお良い。
④でもなお改善が見られない、対象者が争う場合には、少なくとも30日以上の期間をおいて解雇予告を行って下さい。解雇の効力を法的に争うことになった場合は、①②の記録を摘示して対応して下さい。
もちろん、そうした事態に立ち至る前に、対象者との間でより円満な解決が出来れば良いのは当然です。対象者の「勤務状況・勤務成績・勤務態度」等が改善できればベスト、自主退職に向けた合意形成が出来ればベターです。
<追記事項>いかなる場合でも感情的な争いにしない。
改善指導の手を尽くし、必要十分な期間を費やしてもなお問題解決に至らない場合には、最終的には本人の意に反する措置をとらざるを得ないでしょうが、その場合でも、対象者との間で感情的な争いにならないよう、注意が必要です。
「争う」べきは解雇の要件に該当する事実関係であり、解雇の法的効力です。「非難」すべきは対象者の「勤務状況・勤務成績・勤務態度」等であってその人格ではありません。また、「和解」こそが問題解決の要諦です。
上記のプロセスを進める上で、就業規則上の「普通解雇」以外に、何らかの和解が成り立つなら(例えば「依願退職」扱いにする、法定の解雇予告手当を超える手当を支払うことで「普通解雇」を受け入れるなど)なお良いことです。
A4)解雇の要件_就業規則および労働契約への明記と適正な手続きが必要
解雇には、①普通解雇、②整理解雇、③懲戒解雇の別があり、それぞれ、被用者がどのような事由で解雇されることがあるか、就業規則に明示し、かつ、労働契約書(労働条件通知書)に明示しておかなければなりません。
参考までに、東京労働局「就業規則作成例」には、次のような規定例が掲載されており、解雇要件としては必要十分な規定であり、これが適正かつ厳格に適用されているなら、解雇に関して何も「悩む」必要はないと思われるほどです。
<参考>東京労働局「就業規則の作成例」より
(普通解雇および整理解雇の規定例)
http://tokyo-roudoukyoku.jsite.mhlw.go.jp/var/rev0/0140/9553/201471092944.pdf
第49条 労働者が次のいずれかに該当するときは、解雇することがある。
① 勤務状況が著しく不良で、改善の見込みがなく、労働者としての職責を果たし得ないとき。
② 勤務成績又は業務能率が著しく不良で、向上の見込みがなく、他の職務にも転換できない等就業に適さないとき。
③ 業務上の負傷又は疾病による療養の開始後3年を経過しても当該負傷又は疾病が治らない場合であって、労働者が傷病補償年金を受けているとき又は受けることとなったとき(会社が打ち切り補償を支払ったときを含む。)。
④ 精神又は身体の障害により業務に耐えられないとき。
⑤ 試用期間における作業能率又は勤務態度が著しく不良で、労働者として不適格であると認められたとき。
⑥ 第59条第2項に定める懲戒解雇事由に該当する事実が認められたとき。
⑦ 事業の運営上又は天災事変その他これに準ずるやむを得ない事由により、事業の縮小又は部門の閉鎖等を行う必要が生じ、かつ他の職務への転換が困難なとき。
⑧ その他前各号に準ずるやむを得ない事由があったとき。
2 前項の規定により労働者を解雇する場合は、少なくとも30日前に予告をする。予告しないときは、平均賃金の30日分以上の手当を解雇予告手当として支払う。ただし、予告の日数については、解雇予告手当を支払った日数だけ短縮することができる。
(懲戒解雇の規定例)
http://tokyo-roudoukyoku.jsite.mhlw.go.jp/var/rev0/0140/9561/11.pdf
第61条 労働者が次のいずれかに該当するときは、懲戒解雇とする。ただし、平素の服務態度その他情状によっては、第48条に定める普通解雇、前条に定める減給又は出勤停止とすることがある。
① 重要な経歴を詐称して雇用されたとき。
② 正当な理由なく無断欠勤が 日以上に及び、出勤の督促に応じなかったとき。
③ 正当な理由なく無断でしばしば遅刻、早退又は欠勤を繰り返し、 *回にわたって注意を受けても改めなかったとき。
④ 正当な理由なく、しばしば業務上の指示・命令に従わなかったとき。
⑤ 故意又は重大な過失により会社に重大な損害を与えたとき。
⑥ 会社内において刑法その他刑罰法規の各規定に違反する行為を行い、その犯罪事実が明らかとなったとき(当該行為が軽微な違反である場合を除く。)。
⑦ 素行不良で著しく社内の秩序又は風紀を乱したとき。
⑧ 数回にわたり懲戒を受けたにもかかわらず、なお、勤務態度等に関し、改善の見込みがないとき。
⑨ 職責を利用して交際を強要し、又は性的な関係を強要したとき。
⑩ 第13条に違反し、その情状が悪質と認められるとき。
⑪ 許可なく職務以外の目的で会社の施設、物品等を使用したとき。
⑫ 職務上の地位を利用して私利を図り、又は取引先等より不当な金品を受け、若しくは求め若しくは供応を受けたとき。
⑬ 私生活上の非違行為や会社に対する正当な理由のない誹謗中傷等であって、会社の名誉信用を損ない、業務に重大な悪影響を及ぼす行為をしたとき。
⑭ 正当な理由なく会社の業務上重要な秘密を外部に漏洩して会社に損害を与え、又は業務の正常な運営を阻害したとき。
⑮ その他前各号に準ずる不適切な行為があったとき。
ただし、いずれの解雇についても、その要件が有効(適法)に成立することについての挙証責任は使用者側にありますので、万一、解雇の有効(適法)性が争いになった場合でも十分な証拠を整える必要があります。
整理解雇については、下記が必要要件です。(判例)
① 整理解雇することに客観的な必要があること
② 解雇を回避するために最大限の努力を行ったこと
③ 解雇の対象となる人選の基準、運用が合理的に行われていること
④ 労使間で十分に協議を行ったこと
懲戒解雇について言えば、少なくとも、
①対象者の非違行為およびこれに対する指導の記録(いつ・誰が・何処で・何を・どうした・・・)を文書で残すこと、
②対象者に改善の機会を与え、その経緯と結果を同様に文書に残しておくことが
必要です。
<参考>東京労働局「解雇のルール」